2000-12-26から1日間の記事一覧

 稲見一良『ダック・コール』ハヤカワ文庫

「鳥」を共通のモチーフにしながら、自然と人間との交流を描く短編集。大きなテーマは共通しているのだが、収録されている六つの短編は、舞台も登場人物もスタイルもそれぞれ異なっている。ベストを挙げるならば、「密猟志願」「波の枕」「デコイとブンタ」…

 柄刀一『アリア系銀河鉄道』講談社ノベルス

異空間に飛ばされて不可解な事件を解決させられるという奇妙な経験を繰り返している宇佐見博士。彼が経験した「事件」をまとめた短編集。ベストは、表題作「アリア系銀河鉄道」と「アリスのドア」、もう一作挙げるとすれば「ノアの隣」になるだろうか。 幻想…

 広瀬正『鏡の国のアリス』集英社文庫

ある美容整形外科医の元に、性転換手術の相談にやって来た青年。青年は医師に自らの奇妙な体験談を語る。彼は銭湯につかっていると、男湯に入っていたはずなのになぜか女湯に入っていたのだと言う。女湯から叩き出された彼が見たのは、あらゆるものが左右あ…

 広瀬正『マイナス・ゼロ』集英社文庫

1963年、浜田俊夫は及川という人の家の離れの研究室にいた。18年前、かつてこの家の住人であった伊沢博士は焼夷弾の直撃を受けて死んだが、いまわの際に俊夫に<千九百六十三年五月二十六日午前零時、研究室へ行くこと>という言葉を遺した。そして約束の時…

 井上ひさし『十二人の手紙』中公文庫

この短編集は、性別も年齢も職業も生活もまったく異なる十二人の人間の周囲でやりとりされた手紙によって構成されている。手紙以外にもいわゆる役所に出す届けなどの公式文書も入っているが、文章はすべて「書かれたもの」で構成されている。最後のエピロー…

 笠井潔『バイバイ、エンジェル』創元推理文庫

舞台がフランスで、ちょっとなじみのないフランス語の人名が登場したり、のっけから哲学の議論が登場したりと、とっつきの悪いことおびただしいが、謎解き部分は正統派の本格である。「首の切られた死体」の解釈にもひと工夫されており、探偵役の矢吹駆(カ…