柄刀一『アリア系銀河鉄道』講談社ノベルス

異空間に飛ばされて不可解な事件を解決させられるという奇妙な経験を繰り返している宇佐見博士。彼が経験した「事件」をまとめた短編集。ベストは、表題作「アリア系銀河鉄道「アリスのドア」、もう一作挙げるとすれば「ノアの隣」になるだろうか。



幻想的な世界の中できっちり本格推理を構成しているという素晴らしい作品集である。あらかじめ特殊な世界のルールを決めたうえで本格推理を構成しているという意味では、西澤保彦のSFミステリに共通する部分はある。ただ、西澤保彦の場合はいい意味での「パズルを構成するための条件設定」であり、推理というゲームを面白くするため以上のものでも以下のものでもない。それに対しこの本では、特殊な世界のルールというものが形而上学的な意味合いを持ってくる。それぞれの短編で発生する事件が、それぞれの世界の秩序の根幹と密接にかかわり合う形で設定されていることで、幻想的な世界の中で謎解きの鮮やかさが綺麗に浮かび上がり、同時に謎の解決がなにか哲学的な命題を暗示しているように予感させる。
短編でありながら、長編になってもおかしくないような推理の完成度と世界の奥行きを持つ。これだけ高い完成度をもつ作品はあまり見たことが無い。新刊をあまり読まない私の読書傾向もあって、今回初めて柄刀作品を手に取ったわけだが、今後ぜひともチェックしなければならない作家の一人になりそうだ。