はやみねかおる『ギヤマン壺の謎』『徳利長屋の怪』講談社青い鳥文庫

続いて、シリーズ番外編・大江戸編の紹介。今回は「夢水清志郎左右衛門」として、幕末の江戸に登場する。亜衣・真衣・美衣は回船問屋の娘、レーチは岡っ引見習い、真里さんはかわら版屋としてそれぞれ登場する。
舞台が花のお江戸に移っても、怪盗やら移動する地蔵様やら、そして江戸城消失やら、いろいろな謎が乱れ飛ぶ。そして、歴史上の人物がいろいろ登場するということもあって、なんだか山田風太郎の歴史物を読んでいるような感じでなかなかあなどれない。あとがきを読むと作者は書くのにかなり苦労したようだが、歴史上の人物の使い方もうまいし、遊び心に富んでいる。



個人的なツボだったのが、冒頭でなぜかイギリスにいた清志郎左右衛門がエディンバラ大の構内で外科学教授のジョゼフ=ベルに会い、そこで清志郎左右衛門の推理を見せられて、「しかし、きみの思考のしかたは、面白いね。こまかく観察すれば、なにもきかなくてもたくさんのことが分かる、いい例だ。こんど、学生たちにも教えてみるよ」と話すくだり。文中では詳しくフォローされているわけではないので、分かる人だけ分かるという形になるが、ベル教授は実在の人物で、観察と推理によって患者の生活や経歴を知るというやり方を医学部で講義していた。このときの教え子の一人がかのコナン・ドイルであり、彼がヒマな開業生活のつれづれに小説を書き始めたとき、ベル教授をモデルにしてシャーロック・ホームズを創造したのである。この辺に思わずニヤリとしているシャーロッキアンが一人。