小泉喜美子『時の過ぎゆくままに』講談社文庫

最後は、絶筆「友を選ばば」を含む、1986年刊の遺作短編集。
『男は夢の中で死ね』(光文社文庫)とは刊行年が一年しか違わないのだが、『男は〜』が1970年代後半の作品が中心なのに対し、この本は急逝直前の1980年代の作品が中心である。
実は、この1冊だけちょっと作品の雰囲気が違う。小泉作品に登場するのは多くの場合は男性、それも作者の理想を投影した男性であった。しかし、この本では女性、とくに作者自身を投影し、作者自身の目から見たかのような女性が多く描かれている。そして、「女であること」というテーマが前面に出てくる。そのためか、それまでの作品の特徴である、いささか甘い感傷や華麗さといったものがぐっと後に引き、逆に寒々しさすら覚えるものもある(たとえば「週末のメンバー」など)。
文庫版の新保博久の解説にある通り、「作者が最終的に到達した境地」と言えないこともない。しかし裏を返せば、「最晩年の作品」という言い方が妙にしっくり来てしまう作品でもある。突然の死であったはずなのに、まるでそれに合わせていたかのような作風の変化。華麗なる作品を書き続けてきた作者が、この時期にこう言ったタッチの作品を書くようになった心境の変化とはいったい何だったのだろうか。
というわけで、この本のベストは、ちょっとしたひっかけの楽しい「同業者パーティ」、よほど「恨み」があったんだろうと苦笑してしまう「たたり」、そしてひな人形への哀しい思いが胸を打つ雛人形草子」の3作である。