小泉喜美子『暗いクラブで逢おう』徳間文庫

今回は小泉喜美子短編集一斉レビュー。年代順に行く。
まずは1976年刊の第1短編集であるこの本から。全編ハードボイルドタッチの味わい深い作品である。最初の2編「日曜日は天国」「暗いクラブで逢おう」で男性を主人公としたハードボイルド風の作品を書いていて、続く2編「死後数日を経て」「そして、今は……」では、同じタッチで女性を主人公とした作品を書いているのが興味深い。
初読の折りにはあまり面白いとは思わなかったのだが、今回再読してみると、それぞれの作品に込められた哀歓がしみじみと心を打つ。この作品に通底するテーマは「見果てぬ夢」。かなわぬ夢と現実の狭間にいる人々が淡々と描かれていて、じっくり読むとなかなか味がある。
ベストは、都会に憧れる人間の悲しい現実を描きつつ、この本で唯一ミステリ的趣向を決めてくれた「故郷の緑の……」、ほのかに心温まる結末が印象的な「酒と薔薇と拳銃(ガン)」、そして「女の哀愁」ともいうべき味の出ている「そして、今は……」の3作。