西澤保彦『なつこ、孤島に囚われ』祥伝社文庫

官能百合小説作家・森奈津子は、見知らぬ女に一服盛られて意識を失い、目覚めてみると無人島にたった一人で取り残されていた。しかし海はきれいだし冷蔵庫のカニは食べ放題、監禁されたはずなのに実に快適な生活。そんな孤島生活をエンジョイしていた奈津子は、ある時向かいの島に人影を見つけて…。



祥伝社400円文庫の一冊。ボリューム的には中編程度。
ネット上で書評をいくつか見たが、予想通り厳しいものも多かった。曰く「完全に内輪受け」、曰く「駄作である」など。まあ確かに、トリックはあの西澤保彦にしてはシケシケとしか言い様がないし、「森奈津子キャラ萌え小説」でしかない、とも言える。
それでも断言しよう。許す。アリだ(笑)。設定を聞いた時点で元からガチガチの本格を期待していなかったというのもあるが、「内輪受けで独りよがり」という感じも(個人的には)受けなかったし、何と言ってもこの作品では西澤保彦の筆がノリまくっていて、それにつられてこっちも楽しんでしまった時点で私の負け。だから許す。
実際の執筆状況がどうだったかは知らないが、「筆がノッている西澤保彦の作品」が気に入っているのだ。『幻惑密室―神麻嗣子の超能力事件簿 (講談社文庫)』(講談社文庫)以降のチョーモンインシリーズしかり、『七回死んだ男 (講談社文庫)』(講談社文庫)あたりの作品しかり。西澤保彦の「筆のノリっぷり」には、なぜかついつい引きずり込まれてしまう私である。
そんなわけで、ごくごく個人的にはこの作品はオッケーですが、注意を一つ。あまり西澤作品を読んでいない人、この作品を読んで、「西澤保彦はくだらねえ」とか「西澤保彦はエロ推理作家だったのか」とかいう思い込みはくれぐれもしないようにしてくださいませ。面白い作品は他にいっぱいありますんで。