紀田順一郎『古本街の殺人』『古本収集十番勝負』創元推理文庫

愛書家グループ「黎明の会」の面々は、メンバーで古書店主の清水の店で古本談義に興じていたが、その隣の部屋で、古書店主で清水の店の入るビルの大家でもある小場瀬が死んでいた。折しも地上げの問題なども絡んでおり、「黎明の会」のメンバーにも嫌疑がかかる…『古本街の殺人』
村雲書店の主・源三郎は、二人いる娘婿のどちらに店を継がせるべきか迷っていた。そこで思いついたのが、指定の稀覯本10冊を、適価で、できるだけ多く仕入れた者に店を継がせることとした。古書収集の真剣勝負は、古書マニアの大学教授や他の古書店主を巻き込みながら、あるときは蔵書処分の場、あるときは古書即売会と、あちこちで展開される…『古書収集十番勝負』
この本の見どころは、人が死んだとか稀覯本が消えた云々よりも、神保町という街の風景と、そこに集まってくる古書マニアの面々のおかしさだろう。この本を手に取ったり、あるいはそもそも私のホームページを見て下さっているような方には、ここに登場する面々の行動や心理には思い当たる節があるはず。どちらも妙な共感とともに読むことのできる本である。

余談その1。この二冊は、それぞれ『古本街の殺人』は『鹿の幻影 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)』、『古書収集十番勝負』は『魔術的な急斜面 (創元クライム・クラブ)』の改題文庫化である。確かに旧題は内容がピンと来ないちょっと難解なタイトルであるが、新しいタイトルはちょっとストレートすぎないだろうか。タイトルにもうひとひねりあったらなあ、と思う。
余談その2。神保町には数年前からちょくちょく通うようになった。だから見覚えのある場所なども出てきて楽しめた。もっとも私の場合、主な目的は社会学関連の専門書を安く買うことと、三省堂書泉グランデのような大型新刊書店をのぞきに行くことである。だからこれらの本に登場する古書収集家のごとく、数千円単位の本を探し回ったり、目録を握りしめて古書即売会を駆けずり回って、稀覯本やコレクターズアイテムを集めるということはない。
ただ、古本屋巡りはすっかり趣味になってしまった。一昔前のミステリ作家の本を読むようになってからは、ブックオフなどの大型古書店に足しげく通い、100円コーナーにお宝がないか目を皿のようにして見ている(旅行とかに行っても観光そっちのけでブックオフを襲撃する)。Yahoo!オークションも定期的にチェックして、ときおり落札もしている。
今の所は古本を買うとしても主に文庫本で、高くてもせいぜい1000円台のハードカバーだし、オークションでも1000円以上の商品には手を出せずにいる。しかし、古書収集の道に既に片足をどっぷり突っ込んでいるのは間違いない。そのうち、私もレアなミステリー本を求めて神保町界隈やらデパートの古書市を走り回るようになるのだろうか。時間の問題か。

(2005.10.14追記)
この頃ほどの古本熱は今は無くなってしまった。ヤフオクも今はほとんど見ていない。ただ、自分で金を稼ぐようになったがゆえの恐ろしさ、時折行く古本屋で「これは高いや」とあきらめる値段の最低ラインがじわじわと上がってきている。