芦原すなお『ミミズクとオリーブ』創元推理文庫

作家の「ぼく」は八王子からバスで20分ほど山の方に入ったところに住んでいる。原稿の締め切りにいつも追いまくられている「ぼく」の妻には、特技が二つある。一つは手料理、もう一つは推理。「ぼく」の同級生で刑事をしている河田が持ち込んでくる事件の数々を、妻は鋭いカンを働かせて解いていく。



安楽椅子探偵ものの短編の数々なのだが、正直なところ推理には難がある。
安楽椅子ものの魅力は、「机上の論理」にもかかわらず、論理がきれいに決まるところにある。だから、よくよく考えれば牽強付会な論理であっても、少なくとも答えを読んだ瞬間には「あっ!」と驚けないといけないだろう。しかしこの作品で示される解決は「え、それで良かったの?」という感じで、ちょっと驚きが薄いものが目立った。ミステリとしてはちょっと減点かもしれない。
……と、一通りくさしたが、この小説の魅力はもっと別な部分にある。まずは、「ぼく」の奥さんが作ってくれる手料理の数々。讃岐といえばうどんしか思いつかない私にとっては、奥さんが作ってくれる讃岐の郷土料理は初めて聞くものばかりでなんともおいしそうだ。そして、「ぼく」と奥さんとの間で、そして時には河田を交えた三人の間で展開される軽妙な会話のやりとり。この部分を読んでいるだけでも何だかにやにやしてきてしまう。実にうまい。会話文のうまい作家は無条件に気に入ってしまう私は、それだけでファンになってしまう。
文庫版の帯やあらすじには盛んに「安楽椅子探偵もの」ということを強調しているが、あまりそこばかりにこだわって読まないほうがかえっていいと思う。しがない作家でちょっと頼りない「ぼく」と、出来過ぎなぐらいの奥さんとのやりとりを楽しむべし。その意味でのこの本のベストは、「おとといのおとふ」「梅見月」「寿留女」の3編。
それにしても、男性女性を問わず、家にこういう「同居人」がいたらいいなあと思いませんか?