高木彬光『白昼の死角』角川文庫

手形詐欺を題材に完全犯罪を取り扱った作品。昔から薦められていたのだが、現在でも十分「厚い!」と思わせるだけのボリュームに、経済事件という取っ付きの悪さが重なって、長らく手が出なかった。せっかくの機会だから、と手に取ってみた。
これが面白い。
前提となる部分は手形の専門知識である*1。また、戦後の経済混乱期から復興そして高度成長へという時代背景も知識として必要になるかもしれない。しかし、その辺をすべてすっ飛ばしたとしても、中心にあるのは完全犯罪計画という魅力的な謎。そして、足がかりこそ法制度の「死角」であるが、完全犯罪を実現するための緻密な計画には、心理操作あり場所の偽装あり、ミステリでおなじみのトリックが満載なのだ。
そして、緻密な計算の積み重ねにより完全犯罪が完成する様を、そしてある誤算からじわじわと「犯人」が追いつめられていく様を、高木彬光独特の熱っぽい文体に煽られつつ楽しんでいるうちに、気が付けば残るページは後わずかになっている。
最新版は去年出た光文社文庫版のようだが、今回読んだ昔の角川文庫版が一番見つけやすいかもしれない。ある意味きっかけをくれたホリエモンに感謝しないと。

*1:こちらによると、この本は今でも手形小切手法のガイドとして通用するそうだ。