有栖川有栖『スイス時計の謎』講談社ノベルス(ISBN:4061823167)

短編ミステリというのは極論を言えばどれも一発ネタだと思う。それを一発ネタと思わせないように演出を巧みに施すことができる人が「短編の名手」なのだろう。
さて、有栖川有栖はこと短編に関してはあまり評判がよろしくない。おそらくそれは、フェアプレイに徹するあまりか、演出抜きにネタを真っ正直に持ってきてオチにしてしまうからだと思う。これだといきなり天下り式にネタが降ってきたように見えてしまい、膝を打つというよりも頭に来てしまうのだ。
この本に収められた作品の中にも、いくつかそう言った欠点が見えてしまっているものがある。しかし表題作「スイス時計の謎」は、最後までロジックでごりごりと一点突破していくのが心地よく、評判通りの出色のでき。ただ欲を言えば、もう少しだけ分量を抑えれば逆に全体が引き締まり、ロジックのインパクトが引き立ったと思う。