ドナルド・E・ウェストレイク『踊る黄金像』ハヤカワ文庫ミステリアス・プレス

誰もが何かを捜していて、誰もがどこかに行きたがり、誰もが他の誰かになりたがっている街、ニューヨーク。南米の小国デスカルソから、百万ドルはする踊るアステカ僧侶の黄金像が密かに持ちだされ、この大都会にやってきた。博物館に売りつけるはずが、よりによって複製の黄金像15体の中に紛れこんでしまい、ある団体のメンバーに一つ一つ配られてしまった!ニューヨーク中に散らばった黄金像の中のたった一つの本物をめぐって、小悪党どもが集まり、ニューヨーク中を駆け回る。ガッタ・ハッスル、急がなくっちゃ。



おそらく話の本筋に絡む主要な登場人物だけを抜きだしても20人を超える。どいつもこいつも一癖あるたくさんの小悪党どもが、16体の黄金像を見つけては壊しをくりかえす展開。しかし、個々の登場人物のエピソードをいちいち書いていたり、偽の黄金像が消去されていく過程にもバリエーションをつけていたりと、細かいところまで筆が行き届いていて飽きさせない。このストーリーではともすれば安易なパターンの繰り返しになってしまいそうなものだが、逆にたくさんの登場人物を絡ませることでさまざまな笑えるシチュエーションを用意している。
登場人物の書き分けはきっちりされているものの、さすがに登場人物が増えてきてだんだん分からなくなってきたところで、ちゃんと一休みして登場人物の「おさらい」をするあたりの呼吸はお見事。そして、残りの黄金像が絞られてくると話がぐんぐんと収束し始め、あんなにたくさんいた登場人物がきっちりと一つの話の筋に集まってくるところがうまい。
ウェストレイクは初挑戦だったが、コメディ調の作品が好きな私には見事にツボだった。細かいところでちゃんと笑いを用意しつつ、話全体の流れもきちんと作っている。日本でこういうものを書ける人はちょっと思いつかない。もう何冊か読んでみたい。