ミステリ周期表

ちまちまと読み進めていた山村正夫『推理文壇戦後史(I〜III)』(双葉文庫)を読了。「推理小説史」には最近関心があるので興味深く読んだ。
その中で、こんな言及があった。

そういえば、推理文壇には“十年周期説”という面白いジンクスがあるのを、読者はご存知だろうか。ほぼ十年目毎に大きなブームの山が訪れ、推理小説に新風をもたらすような有力な作家群が輩出して、それにより推理小説界全体が活気づくというわけだが、なるほど戦前戦後の歴史を振り返ってみると、そうした現象が見られなくはない。
(II巻、29-30ページ)

戦後間もなくの1947、8年に高木彬光山田風太郎などの「戦後派五人男」がどっとデビューし、戦後の探偵小説の復活を支える。その十年後の1957、8年には仁木悦子『猫は知っていた』と松本清張の『点と線』『眼の壁』がベストセラーになり、推理小説が一般的な認知を得る。それを踏まえての山村の指摘である。

ものは試し、山前譲『日本ミステリーの100年』(光文社知恵の森文庫)や関口苑生江戸川乱歩賞と日本のミステリー』(マガジンハウス)を手がかりにその後を追いかけてみる。
1969年は沈滞期の中で江戸川乱歩夢野久作の全集や桃源社の「大ロマンの復活」シリーズで戦前の探偵作家のリバイバル・ブームが起こる。この年の乱歩賞をとってデビューしたのが森村誠一で、惜しくも敗れた夏樹静子が翌年にデビューし、この二人が1970年代のミステリ界を引っ張る。
1978年は、横溝正史ブームの余韻が残る中、赤川次郎三毛猫ホームズの推理』で三毛猫ホームズが初登場し、また西村京太郎のトラベル・ミステリー第1作『寝台特急殺人事件』が刊行された。この二人がミステリーの読者層を一気に拡大することになる。
1987年はトラベル・ミステリーの大ブームの中で綾辻行人十角館の殺人』が刊行された新本格元年。この年以降、講談社東京創元社が次々と新しい世代の作家をデビューさせていく。そして宮部みゆきが「我らが隣人の犯罪」でオール讀物推理小説新人賞を受賞してデビューしたのもこの年。
そして1996年は森博嗣が『すべてがFになる』で第1回メフィスト賞を取り、それ以降次々と生み出されるメフィスト賞作家がミステリ界の中心となり、新本格ムーブメントが新たな展開を迎える。


ミステリーもはやり廃りのある文化の一つであるから、サイクルがあるのは当然のこと。それでもこうして歴史を追っていくと、日本ミステリー史の重要な節目となる作家や作品がほぼ10年の周期で現れていることが分かる。今なおジンクスは生きているようだ。とすると2002年はちょうど谷間ということになるのだろうか。復刊ブームは「面白い新刊がない」ことの裏返しだしなあ。出版不況を吹っ飛ばすようなミステリ界の新星は、もう三、四年待たないといけないのだろうか。ううむ。