2001年読了ミステリ私的ベスト

今年読んだミステリの中から例によってベスト10を選んでみることにする。
去年(2000年)はオールタイム・ベスト級の名作をガシガシ読みあさっていたが、今年は読んだ本の数が(特に後半に)少なくなったこともあって、去年に比べると「地味」なランクである。さらにこれまた例によって新刊はほとんど読んでいない。それでもいざベストを選ぶと絞り込むのに悩んでしまうから面白いものである。
それでは2001年Tomo-s的ミステリベスト10を発表。順番は作者名のアイウエオ順で、1位2位といったランクづけはしていない。



稲見一良 『セント・メリーのリボン』 新潮文庫

不器用な男たちの演じる「大人のメルヘン」ともいうべき味わい深い稲見作品の中で、特に印象に残ったのがこの一冊。名もなき男たちが一瞬見せる「かっこよさ」が実にいい。派手な立ち回りを演じるばかりがハードボイルドではない。

●大阪圭吉 『とむらい機関車』 創元推理文庫

今年の復刊ものベストはこれ。熱狂的なファンを持つというのはだてではない大阪圭吉の粒ぞろいの作品集。「魅力的な謎とその解決」というミステリーの原点を思い出させてくれる。忘れかけていた「ミステリらしいミステリ」がここにある。

乙一 『夏と花火と私の死体』 集英社文庫

淡々とした文章ながらいつのまにか小説の中に釣り込まれてしまうのが乙一の「奇妙な味」。「枯れた」ともいうべきこの手の文体はそう簡単に書けるものではない。あまり強調しないほうがいいかもしれないが、「これ、ホントに17歳で書いたの?」

恩田陸 『ドミノ』 角川書店

2001年新刊でランクインは結局これだけか(笑)。独特の余韻を残すファンタジーを書いてきた恩田陸が、スラップスティック調でも書けるというストーリーテラーぶりを見せつけた。年ごとに新しい作風を作っていく恩田陸の来年やいかに。

北森鴻 『凶笑面』 新潮社

北森作品の中ではガチガチの本格の部類に入るだろうか? 豊富な民俗学の知識や、印象深い主人公・蓮丈那智を配しながらも、蘊蓄ミステリやキャラ萌えものにせず正統派の本格短編を作り上げた。短編の名手は本格もこなす。

京極夏彦 『魍魎の匣』 講談社ノベルス

いまさらだが京極。分厚さばかりが強調されるが、これは無駄に分厚いのではなく、この物語を作り上げるための必要最低限の分量である。濃厚でありながら飽きさせず、魅力的な物語を紡ぎだす。長編を読んで心地よくなる希有な作家。

多岐川恭 『落ちる』 創元推理文庫

乱歩賞&直木賞作家でありながら知名度はいまひとつ、ブックオフに行けば主に並ぶのは時代物という多岐川恭であるが、この一冊はツボを押さえた好短編集。ストーリー展開で謎を演出するその腕はまさに職人芸。要チェックの作家がもう一人。

辻真先 『合本・青春殺人事件』 東京創元社

ジュブナイルの皮をかぶりつつとんでもない趣向を仕掛けてくる名作。それだけでも十分楽しめるにもかかわらず、ボーナストラックでもうひとひねりしてくる凝りように大満足。本当に子どもの時にこれを読んだらどうなっていただろうか?

●ロバート・リー・ホール 『ホームズ最後の対決』 講談社文庫

幸運にも入手することができたホームズ・パロディの迷作。今まで読んできたホームズ・パロディ&パスティーシュの中でも一二を争う面白さ。復刊する価値はあると思うのだが。入手できた方は、くれぐれも裏表紙のあらすじ紹介は先に読まないように。

連城三紀彦 『私という名の変奏曲』 ハルキ文庫

「七回殺された女」という趣向を、メタに逃げたりSF的設定を使わずに見事に決めた名作。しかも連城三紀彦特有の叙情的な文体が趣向の演出に一役買っていて、物語にひたっていると見事に背負い投げを食らう。騙しと叙情の見事な結合がここにある。


さらに今年も準ベストを選ぶが、今回はミステリ作品外に絞って5冊を挙げる。



有栖川有栖編 『有栖川有栖本格ミステリ・ライブラリー』 角川文庫

アンソロジーなのでこちらの枠で挙げる。北村薫編の方も捨てがたいが、がちがちの本格やバカミスすれすれの作品を集めた有栖編を採る。「いやー、ミステリって、いいものですねぇ」と言いたくなるような名作・迷作ぞろい。

喜国雅彦 『本棚探偵の冒険』 双葉社

エッセイ部門から、年末に出たばかりのこの一冊。古本の道に少しでも足を踏み入れたことのある人ならば大いに身に覚えのあることばかり。ユーモアたっぷりの文体と凝りまくった造本。あなたの本棚にぜひ一冊。

瀬戸川猛資 『夜明けの睡魔』『夢想の研究』 創元ライブラリ

評論部門から、特別に2冊挙げる。ネタバレ禁止などの制約の多いミステリ評論をこれだけ面白おかしく展開しつつ、映画などの他のジャンルまでもクロスオーバーさせた論評は読みごたえ十分。世のミステリ評論家の半分ぐらいはこの本を見習え!

山田風太郎 『魔界転生』 講談社文庫

山田風太郎はぜひとも一冊挙げねばなるまい。ミステリ系の作品も数多く復刊され再評価されているが、エンターテイナー・山田風太郎の本領はやはり忍法帖にある。というわけで忍法帖の中でも名作であるこの本を挙げたい。

連城三紀彦 『恋文』 新潮文庫

ラストは一般小説部門から連城三紀彦直木賞受賞作を挙げる。読んだときの心理状態のせいもあったかもしれないが、ものすごく心にしみた一冊。さまざまな形の「恋文」に託された思いが胸に迫る。


さて来年はどんな読書ができますやら。国内作品のオールタイムベスト級作品はだいたい読み終わり、仁木悦子など何人かの作家のクエストも一段落したので、そろそろ本格的に海外ものの古典を押さえたいなあ。その前に手持ちの積ん読を全部消化することが先か。そんなことは無理だろうな。