喜国雅彦『本棚探偵の冒険』双葉社

『日本一の男の魂』などで知られるギャグマンガ家の喜国雅彦は、ここ最近は「探偵小説マニアの漫画家」という肩書きの方が有名になっている。その片鱗はメフィストに連載中の「ミステリに至る病」でも存分に発揮されているが、こちらは『小説推理』に連載されていたエッセイを収録したもの。

古本にまつわるエッセイというのは案外数が多く、面白いものも多い。『古本屋探偵の事件簿』創元推理文庫)などの「古本ミステリ」も書いている紀田順一郎はその第一人者である。最近目にしたところでは岡崎武志『古本でお散歩』ちくま文庫)も面白い。
そんな数ある古本エッセイの中でもこの本はまた独特の面白さがある。まずは本業のノリそのままに、古本に関する悲喜こもごもをツボを心得た面白おかしい文章で書いている。たとえブックオフレベルでも古本屋めぐりに足を突っ込んだ人ならば思い当たる節がありまくりだし、あまりその辺の事情に詳しくない人も大いに楽しめるだろう。
そしてネタがミステリ中心なだけでなく、ネットで古本者として名をはせる皆さんが続々と登場していること。「猟奇の鉄人」あたりをチェックしている人ならばよく見かける名前がたくさん登場して、妙な親近感を持つかもしれない(笑)。ちなみに私は、この本が発売当時に「うちの近くでは見つからない」という話が飛び交う中、「猟奇の鉄人」掲示板で「ここの本屋に平積みになってました」というカキコを見て、次の日にその本屋で無事入手した(笑)。
さらに、特設本棚や函、豆本の作り方まで載っている。この辺は美大出身でもある喜国さんの面目躍如。私にもう少し手先の器用さがあれば部屋のサイズにピッタリの本棚やオリジナル函が作れるのにと思わずにはいられない。
最後にこの本そのもの。凝った装丁だけでなく、函帯月報プラス著者検印つきという既にプレミアを約束された構成。月報には光文社文庫の「文庫のしおり」のシンポ教授が出張という凝りよう。初回配本分のみにつけられるという著者検印がプレミアになるように、早く二刷が出てほしいものだ(笑)。
内容の面白さは保証付き。2500円というハードカバーにしてはやや高めの値段設定だし、いずれ文庫になるのかもしれないが、本そのものも持っていて損はない。装丁の凝りかたも含めて楽しめる一冊。

余談だが、月報には既に第二弾『本棚探偵の回想』の予告が出ている。当然第三作は『本棚探偵の帰還』で、その間に「大空白時代」があるとみてよろしいんでしょうか(笑)。



(2005.11.4追記:その後文庫版が出る一方で、前作同様の凝った造本で第二弾『本棚探偵の回想』が発売された。古本エッセイもますます増え、kashibaさんの『あなたも古本がやめられる』未読王さんの『未読王購書日記』など、古本系ホームページの書籍化も。)