室積光『都立水商!』小学館

文部官僚の酒の席の会話から生まれた「都立水商業高等学校*1」。「♪ネオン輝く歌舞伎町〜」と始まる校歌(中山大五郎作曲)の通り、歌舞伎町のど真ん中に建てられたこの高校は、女子に「ホステス科」「ソープ科」「ヘルス科」(のちに「SMクラブ科」と「イメクラ科」を増設)、男子に「ゲイバー科」「ホスト科」「マネージャー科」「バーテン科」を擁する、日本初の水商売専門の職業高校だった! 水商の設立から関わった、田辺圭介の回想とともに、日本の教育史に革命的な一ページを残した水商の歴史がつづられる。



水商売やフーゾク専門の学校の話というのは、探せば官能小説やエロ漫画で前例がありそうな気もするが、ともかくも本格的に書いてしまったのはこの作品が最初だろう。とにかくエピソードがいちいち面白い! 「実習」の様子とか「欠席率の低さ」とか学園祭の風景とか、細かいところまで書き込まれたエピソードがどれも笑える。これは完全に設定の勝利。笑いだけでなく、恋愛を盛り込んだり「ちょっといい話」を盛り込んだり、あるいは今の教育のあり方についてちょっとだけ考えさせられたりと盛りだくさんである。
ただしちょっと惜しいところがある。まずは全般的に文章や構成の粗が目立ってしまうこと。特に構成が出来事の羅列のような平板な感じになってしまっている。せっかくの題材なんだからもう一つうまい構成をしてくれれば、文句なしの大傑作になっていたのにというところ。そしてもう一つは、いきなり甲子園に行ってしまった水商野球部の話が中心になる後半では、完全に野球小説になるとともに「高校野球批判」が前面に出てきてしまい、別に水商という設定があってもなくても関係ない話になってしまったことである。高校野球らしからぬ水商応援団の姿は面白いのだが、選手は皆「実は高校生離れした球児たち」で、ここでは水商の設定が生きていない。「ホスト科やバーテン科などのテクニックを野球に持ち込んだ水商らしい型破りな野球」を見せてくれたら良かったのに、と思う。
しかしそれでも純粋に大笑いできることは間違いない。その手の描写に抵抗のない人はぜひとも読むべし!

(2005.11.4追記:マンガ版が快調で10巻を突破。原作の欠点をフォローしつつ、新たなエピソードを盛り込むことで作品世界を大きく広げている。「小説の漫画化」の成功例の1つかもしれない。)

*1:おみずしょうぎょう、と読ませる。ちなみにマンガ版は普通に「みずしょうぎょう」と読ませている。