大阪圭吉『とむらい機関車』『銀座幽霊』創元推理文庫

戦前の数少ない本格短編作家であり、終戦を前に戦病死した幻の作家、大阪圭吉の推理短編集二冊。それぞれにベスト3を選ぶと、とむらい機関車』からは、謎とストーリーが見事に融合した白眉である表題作とむらい機関車」、動機の設定が素晴らしい「気狂い機関車」、突然現れて決定的な証言をする女の謎が面白い「あやつり裁判」を挙げたい。『銀座幽霊』からは、とにかく大仕掛けが面白い「燈台鬼」、ユーモアの中に隠された謎が楽しい「大百貨注文者」、ネタは何となく読めるが余韻を残す「人間燈台」の三つを挙げる。



いろんな意味で「懐かしい」作品集である。もちろん時代背景や文体には戦前の作品特有の古さがある。しかしそれだけではなく、提示される謎がストレートである「直球の謎解き」の作品ばかり、という意味でも懐かしい。叙述トリックやメタミステリの趣向など、めっきりテクニカルになった最近のミステリの動向と比べると、懐かしさを覚えるとともにうれしくもなるストレートさである。
大阪圭吉の作品は江戸川乱歩によって「ドイルの直系」と評されたという。その共通項は、シンプルだが実に魅力的な謎を持ち出してくれるところだと考える。豪快な大技からちょっとした仕掛けまで、どれをとっても謎の設定がうまい。「あやつり裁判」などは謎の設定がうまく生かされた作品と言えるだろう。大阪圭吉の作品は、この「魅力的な謎」というミステリーの原点を堪能させてくれるがゆえに「懐かしく」もあり、コアなファンも多いのだろう。
それに加えて動機や小説世界の設定にも独特の味がある。港や鉱山の労働者の世界を舞台にし、社会派的な雰囲気も漂わせている。さらにトリックだけでなく「なぜか(why)」という動機についても、作品の中で重要な位置づけを与えられている。文学史的には当時のプロレタリア文学との関係などを論じることができるのかもしれない。謎解きをゲームとして割り切り、動機や背景についてはあえて気にせずとりあえず脇に置いておくというタイプの、最近割合によく見かけるミステリーと比べると(そうした作品を否定するつもりはないが)、そこにまた新鮮さを感じる。
「まったく古びていない」とはお世辞にも言えないが、ミステリーの原点である「謎」を十分に楽しめる作品集である。以前から評判が高かったのも納得できる。復刊に感謝。