結城浩『数学ガール/乱択アルゴリズム (数学ガールシリーズ 4)』ソフトバンククリエイティブ

シリーズ最新刊、とはいえ刊行されてからだいぶ経っているが、ふと読み直してみたくなったので再読。
せっかくなので、別のところに昔に書いた『数学ガール (数学ガールシリーズ 1)』(シリーズ第1巻)の評を、はてなに転載

On the "Mathematical" Side

確率、期待値、二項分布、行列、一次変換……高校時代には一応授業で習っているもろもろの事柄が、クイックソート乱択アルゴリズムといった現在のコンピュータ数学につながっているのか、と改めて感心した。
特に行列式。最初に高校の数学で習ったときは、行列の積とか逆行列の計算に苦しみつつ「何でこんな面倒な物を考えるんだ?」と思ったものだった。一次変換を習ってなんとなく使いどころの一つが分かった、という程度の理解だったが、なるほどこういう風に拡張できるのか……と。

On the "Girls" Side

この物語に出てくる女の子たちはベタベタな「萌え要素」の固まりである。だって、いささか下衆な言い方を許してもらうならば、「黒髪銀縁眼鏡のクール系お姉様」に「ショートカットでややドジっ子属性の元気系後輩」に「ポニーテールで語尾に『にゃあ』を付ける妹系幼なじみ」ときて、みんなが何かしら主人公に思いを寄せているという「ハーレム展開」。さらに最新刊には「プログラムに非常に強いけど無口無表情でストレートに物を言う長門有希系少女」とくるのだから。
だが、話を読んでいく中では、そういうベタベタの萌えをあまり感じずに、数学の世界に入っていく。やはり「ラノベ」ではなく「数学書」。
おそらくそれは、登場人物が(そして作者の結城さんも)数学に対して非常に真摯な態度で向き合っているからだろう。「萌えで理解する数学」的な本と一線を画しているのは、決して萌えが数学より前に出てくることが無いという、この「真摯さ」なのだろうな、と思う。
キャラについてもう一つ思ったのは、これだけ真正面から数学に取り組む物語の中では、生半可なキャラ立ちの登場人物では何の「彩り」も「アクセント」も付けられず、「教科書や参考書にでてくるような、ただの説明役でしかないキャラ」で終わってしまうだろうな、ということ。ハードな数学の世界に負けること無く、登場人物が語り出し動き出すためには、むしろこれぐらいベタなキャラでいいのかな、とも考えた。
そうなると気になるのが、少しずつ出ているマンガ版「数学ガール」。マンガでは数式を並べるわけにはいかないから、メインであるところの数学的要素はいくらか背景に回さないといけない。そうすると、絵でビジュアライズされることも相まって、このベタベタな「萌え要素」が前に出てくるため、かなり印象が変わってしまう。クラシックや百人一首と違って、これは料理が実に難しいよな……と思うが、どうなんだろう。