ミステリ以外の新書も入れてみよう

  1. 間羊太郎『ミステリ百科事典』文春文庫
  2. 松尾由美『安楽椅子探偵アーチー』創元推理文庫
  3. ミステリー文学資料館(編)『ペン先の殺意 文芸ミステリー傑作選』光文社文庫
  4. 高田衛『完本 八犬伝の世界』ちくま学芸文庫
  5. 鴻巣友季子『明治大正 翻訳ワンダーランド』新潮新書
  6. 小島寛之『使える!確率的思考』ちくま新書
  7. 森博嗣『大学の話をしましょうか』中公新書ラクレ

1は現代教養文庫版を読んだ事があるが、大幅増補されたということで購入。性質上ネタバレバリバリだが、ある程度古い作品が中心であるから、極端に気にする必要はないだろう。紹介のし方が非常にうまいので、逆にここで紹介されている日本の昭和期ミステリや海外古典への呼び水になってくれるかもしれない。また、おそらくシンポ教授の手によると思われる索引にはただただ脱帽。昭和20年代の推理雑誌から最近復刊されたアンソロジーに至るまで、現在もっとも入手しやすい版を丹念に調べて記載している。
小説は3まで。4は一度読んでみたかった本。『南総里見八犬伝』は伝奇物の古典としての面白さ以上に、「伏姫という名は人と犬とを合わせた名である」式の名前の見立てや、前世の因縁・因果応報の思想に基づいて物語のあちこちに張りめぐらされている伏線*1を楽しむという読み方もある。4はこの部分に踏み込んでいて、ちょっとした謎解きの趣がある*2
ふと思ったが、たとえば『三国志』の場合は、岩波文庫の原書を読まずとも、吉川英治の小説版や横山光輝のマンガ版という入り口が存在する。しかし『八犬伝』の場合はちょっと見当たらないように思う。山田風太郎『八犬伝(上・下)』は面白いが、虚実の世界をクロスオーバーさせるというスタイルなので、ここから最初に入るというのは難しいかもしれない。先ごろ復刊された、白井喬二現代語訳の『現代語訳 南総里見八犬伝(上・下)』河出文庫)が手ごろだろうか。
閑話休題。5は明治期に日本で初めて外国文学の翻訳に挑戦した人々をテーマにしている。翻訳の草創期の歴史は、そのまま「翻訳原論」になっているかのような面白さがある。
6は確率論の考え方を現在のホットなトピックにからめて説明している、非常に参考になる本。面白いのが、本の中でちょろっと乙一泡坂妻夫が出てくること。
7は「森博嗣、今の職場について語る」の巻。森博嗣ミステリィについては申し訳ないけどかなり昔に見切りをつけてしまったのだが、この手の「森博嗣的思考」はなんだかんだ言っても好きなんだよなあ。

*1:あまりにも多すぎて読者はすっかり忘れている。しかし、作者馬琴はちゃーんとすべての伏線や因果を回収しているというからなおさら驚き。

*2:ただしこの本は専門的な文学の研究書なのでご注意を。