久しぶりの心静かなる夕べ

レンタルビデオで借りてきた『木曜組曲』(ASIN:B00008Z6KD)を見る。
恩田陸の原作は既に読んでいる。そして気に入っている話の一つである。映画公開の話は知っていたのだがつい行きそこねてしまった。ビデオ屋でふと見つけて借りてきた。

原作の内容で覚えているのは「トマトと茄子のスパゲッティが得意料理だという男」のくだりぐらいで、結末も大ざっぱにしか覚えていないので*1、細かい部分での原作との比較どうこうということはあまり考えずに見た。
ディスカッションが進むにつれ互いに微妙な空気が流れる、という緊張感の作り方がうまかった。さらに、下手な監督だと緊張感をあおりすぎてクローズドサークルもののごとく妙にサスペンスフルにしてしまいかねない脚本だが、料理や食事の場面をうまく場面転換に使い、ほどよく気の抜けた原作の雰囲気を再現していた。
キャストについては、浅丘ルリ子加藤登紀子のキャスティングがドンピシャだった。それぞれ意味合いの異なる存在感が要求されるあの役をきっちり演じていたのはさすが。あとはセリフなしでも表情で語る富田靖子の演技が良かった。安定した演技のできる役者をきっちりとそろえ、うまく生かしたな、という印象を持った。
難点は、各登場人物の名前や仕事や関係といった最低限のプロフィールを、最初の方できちんと把握できるようにしてほしかったこと。最初のうちは役名と顔が一致せず、しばらくは誰が誰に呼びかけているのかが分かりづらかった*2
また、食事のシーンなどはやっぱり映画でないとうまく再現できないだろうが、これはやっぱり舞台の方が合っているんじゃないか、とも思う。一つ所に五人の女性が顔を合わせ、静かにやり合いながらゆっくりと過去の真相に近づいていくストーリーは、場面転換を入れる必要がなく長いセリフ回しも思う存分に使える舞台の方がより生かせるように思う。どこか舞台化すればいいのに。もっとも、キャストにかなり高度の実力が要求されるとは思う。


検索していくつか感想を見てみたが、役者の演技や脚本への評価が人によってはっきりと違っていることに驚いた。書評だと、ここまで極端に評が分かれることはないと思うのだが、たまたまなのだろうか。

*1:おそらく原作と映画とでは結末を変えているはず。

*2:海外ものミステリーを読み慣れない人が、カタカナ名前の登場人物がごっちゃになってしまうのと同様、単に自分が映画慣れしていないだけなのかもしれない。それでももう少し親切にしてくれても良かったのでは、と思った。