行ってまいりました、「『ミステリーズ!』創刊記念・北村薫有栖川有栖トークショー」。ありがたいことに牧人さんが先にレポートを上げてくれたので、それを元に適宜補いながら書くことにする。

牧人さんと待ち合わせて会場へ。前日の大阪は半分ぐらいの入りだったようだが、こちら東京はほぼ満員。会場の7割は女性だったが、一方で中高年の男性の姿もちらほらと見かけた。
お二人が入場してトークショー開始。まず最初に北村さんが「この後のサイン会の順番待ちの間に面白いものがないか考えてください」と持ち出したのが、「人名の姓と名の頭一文字を入れ替えて遊ぶ」というもの。いわゆるスプーナリズム、というよりかは「けつだいら」だなあと思っていたら、「草刈正雄」に「松平健」のサンプルを挙げてきたのでびっくり*1。北村さんはネットはやっていないと聞いたので「けつだいら」はご存じないとは思うが。
前振りの後は、『ミステリーズ!』に掲載したそれぞれの作品について語る、というもの。有栖川さんがクイーンの『帝王死す』を原書で買ったけど挫折した話とか、創元の戸川さん邸・通称「地獄荘」の話とか、いろいろあったが、そこは牧人さんのレポートを見ていただくとして、重要情報としては、

  • 現在7〜8作ある学生アリス短編は、作中の時期が1月から12月まで並ぶように設定を工夫して、「学生の四季」のような形で一冊にまとめるつもり*2。今後は空いている月を埋める形で不定期に学生アリス短編を執筆予定とのこと。
  • 「五十円玉二十枚の謎」北村薫バージョンとなる『ニッポン硬貨の謎』は、だいたい400〜450枚程度になる見込みとのこと。→つまり、一応全体の構想と分量のめどが立っているということで、あの人のアレや例の人のソレみたいに「連載途中で中断」ということにはならないと思われるが、さあどうか。

続いてお二人が共に執筆している『新本格猛虎会の冒険』(東京創元社ISBN:4488023762)の話。元からミステリー作家にはけっこうタイガースファンがいるそうで、その面々で甲子園に阪神戦を見に行ったのがこの本のきっかけらしい。阪神ファンの陣取るスタンドには「掛虎会」とか「真弓会」という「ちょっとヤクザみたいな名前の」応援団*3の横断幕が広げられ、テレビでそれが映しだされることも多い。そこで、冗談交じりに「『新本格猛虎会』なんて横断幕作ったらどうかなあ」という話になり、いつしか「阪神アンソロジー」を作ろうという話になったとか。
ちなみに、折原一日本ハムファン、そして綾辻行人島田荘司広島ファンだそうだ。「広島はいい所を押さえましたね」という一言に会場大爆笑。そのうち『本格カープファン宣言』とか出るのではなかろうか。
そして『新本格〜』に収録されている北村さんの作品「五人の王と昇天する男たちの謎」についての話に移る。
作品で使われた「男が二人『シェー!』のポーズを取っている」ネタは、以前関西ローカルの深夜番組「おなじ穴」に綾辻・有栖・北村で出演したときに(そんな番組が!!)、番組内のコーナーで解かされることになったダイイングメッセージネタを使ったとのこと。ちなみに「僕の回答はむっちゃくちゃロジカルでしたよ」と言いながら語った有栖川さんの回答とは、

  • 一人で済むところを二人で「シェー!」をしていることに意味がある!
  • 「シェー!」×2→「シェーシェー」→「謝々」→「ありがとう」
  • (むちゃくちゃ関西ローカル的に考えれば)「ありがとう」と来れば浜村淳だ!

とのこと*4
もう一つ。鮎川哲也「下り“はつかり”」でおなじみの特急「はつかり」が東北新幹線八戸延伸にともなって無くなる時に、創元の戸川さん・北村さん・有栖川さん夫妻で東北旅行に行ったとのこと。その時の有栖川夫妻のやりとりを見て、北村さんはこの作品では探偵役に有栖川さん、一人称の語り手に有栖川さんの奥さんを配したそうな。
ところがこの短編を読んで、有栖川有栖北村薫が結婚している」と思った人がいるそうな。ここで会場大爆笑。

そろそろ時間が近づいてきたということで、北村さんが先日の協会賞の話題を振る。実は今日、このあと協会賞の授賞式だとのこと。そこで「受賞の連絡が来たときの様子はどうでしたか?」と有栖川さんに聞く。
協会賞を取るとはちっとも思っていなかった有栖川さんは選考会の日は大阪にいたそうだ*5。協会賞決定の記者会見が6時だと聞いていたが、6時3分前になっても電話が鳴らない。これはやっぱり落ちたなと思っていたその時、協会賞と同時に行われている乱歩賞の選考会に出席していた北村さんから電話がかかってきて、受賞したと知らされたそうだ。既に担当の編集さんから有栖川さんに連絡が行っているものと思って北村さんは電話をしたが、期せずして第一報を伝える役目になったとのこと。そして「昨日は金本が打ちましたねえ」などと阪神話をしているうちに、キャッチホンでようやく担当編集さんから受賞の連絡が入った、という次第。
最後に有栖川さんの抱負を語ってもらい、時間ということでトークショーは終了。

続けて質問タイム。一つ目は、「本格ミステリ大賞投票率が全会員の50%程度であるのはちょっと問題だと思うが、会長および事務局長としてどう考えているか」という、ネット上でもかなりの話題になったネタが来る*6
お二人の答えを箇条書きにしておくと*7

  • 全員が投票権を持つというシステムを提案したのは私。(北村)
  • 作家になるとどうしても他の人の本を読むことが少なくなり、そうするとやはり5冊読むというのは大変なことだから、個人的には投票数は20票ぐらいだろうと思っていた。予想より多く投票があった。(北村)
  • 逆に自分としては「5冊ぐらい読めよ」とは思っている(笑)。ただ、投票システムが決まったのが会の発足後ということもあってか、「本格ミステリ大賞」の選出にクラブ員が責任を持つ、ということをあまり把握していないままの会員もいる。もう一つ、知り合いの作家にしろ、大先輩の作家にしろ、同じ推理作家の作品にランクをつけるという作業はいろんな意味でヘビーなことは確かだ。(有栖川)
  • 投票していない人を全員辞めさせれば投票率は100%になるだろうが、そういう問題でもないだろう。そもそも、クラブ員全員が投票権を持つという賞は他にないので、50%ちょっとという投票率が高いのか低いのか判断しようがないのが本当のところ。(有栖川)
  • 大先輩の作家には、たとえ投票することがなくても、クラブに参加しパーティーに参加し折に触れて励ましてもらうことが非常にありがたいと思っている。(北村)

二つ目は、セーラー服姿の女の子が登場。ちょっと会場がどよめいたのは気のせいか(笑)。
質問は、『月の砂漠をさばさばと』(新潮文庫)の「さきちゃん」は将来どんな子になると思うか、というもの。これに対して北村さんは、「自分の子供がちょうど同じぐらいの年に書いた作品ということもあるが、やはり『どうなると思うか』よりは、親として『幸せになってほしい』という気持ちが先に来る」とのこと。ああ、やっぱり北村さんだなあ、と思った答えであった。

時間の関係で質問はここまででトークショーは終了。そのままサイン会へ。
今回はサインするのが『ミステリーズ!』誌のみ、しかもお二人の作品のところにそれぞれ書いてもらうという形に。手間を考えれば仕方がないが、どの本にサインしてもらおうかあれこれ考えていた自分としてはちょっと残念。ちなみに、用意してきたのは二つ。一つはやっぱり『新本格猛虎会の冒険』。そしてもう一つは、『北村薫本格ミステリ・ライブラリー』『有栖川有栖本格ミステリ・ライブラリー』(角川文庫)の二冊を用意し、北村さんの本に有栖川さんのサインを、有栖川さんの本に北村さんのサインをもらうという、無礼スレスレの悪だくみ。

今回のトークショーは、北村さんが話の流れを作りつつどんどんしゃべり、それを有栖川さんがさえぎりつつツッコむという展開だった。お二人ともいろいろな話を面白おかしく語り、非常に楽しいトークショーだった。

*1:「まさかりくさお」は言ったが、さすがに「松平健」でやったらどうなるかは口にしなかった。

*2:若竹七海『ぼくのミステリな日常』のような感じということかな

*3:今はどんな名前になっていたっけ。

*4:ここを見ているはずの関西の皆さまにはぜひフォローをお願いしたい。

*5:本当は選考当日に時差のある外国にいて、ホテルにかかってきた受賞の電話を「今何時やと思ってんねん!」と切る、というのをやりたかったらしい。これは小説のネタにしていると言っていたが、『作家小説』(幻冬舎ノベルス)か?

*6:質問された方の顔に見覚えがあってどなただったかと思っていたが、sasashinさんでしたか。

*7:不正確な内容のまま伝わってしまうと内容が内容だけにちょっと面倒になりかねないので、もしも「実際の話と違う」ということであればTomo-sまでお知らせください。