相川司・青山栄(編)『J’sミステリーズ KING&QUEEN』荒地出版社

私はガイド本の類もちょくちょく読んでいるのだが、なかなか面白いガイドがあったので紹介する。
おそらくワセミス系の評論家が中心になって編まれていると思われる。作家1人につき見開き2ページを使って、日本のミステリー作家を紹介していくというスタイルのガイド。まず、日本のミステリーの流れの中で特筆すべき作家を、新旧・ジャンルを問わず幅広く紹介しているところが良い。いわゆる「新本格」以降の作家ばかりでなく、横溝正史高木彬光鮎川哲也といった先駆者、新津きよみや高村薫坂東眞砂子や柴田よしきと言った女流作家、西村京太郎や森村誠一赤川次郎といった「メジャーだけどあまりミステリ書評には出てこない作家」、大藪春彦船戸与一北方謙三馳星周といった冒険小説・ハードボイルドの系譜と、幅広く目配りが聞いている。個人的には都筑道夫天藤真仁木悦子小泉喜美子といったあたりをちゃんと押さえているのが好感。
そして、見開き2ページの作家紹介は、単なる作品のあらすじの羅列やシリーズ探偵の紹介で終わらず、その作家の作風を的確に伝えている。作家紹介のいくつかは短いながらも一つの「作家論」に近いほどのクオリティを持つ。なかなか読みごたえがあって、読んでいて面白い。
さらに作家紹介の中では代表作のシリーズだけではなく、どちらかといえば異色作といえる作品も積極的に取り上げ、1人の作家の作品群の全体像をできるだけ紹介しようと努めているのも良い。紹介されている作品が多ければ、その作家を読むときの取っ掛かりが増え、「こういう作品ならば好みに合いそうだから、この本から読んでみようかな」ということになりやすい。特に西村京太郎や赤川次郎、あるいは東野圭吾岡嶋二人のような「どこから手を付けていいの分からない」作家の場合、こうした紹介は非常にありがたい。
巻頭に収録されている北村薫折原一の対談や、ジャンル別のレビューなども読みごたえがある。あんまりにもあんまりなタイトルであるのと、おそらく版元がマイナーだけにどこの本屋にもあるわけではなさそうということで、直接本屋の棚で手に取る機会は少ないかもしれない。だが、そろそろ読書の幅を広げたいと思っている人にはぴったりのガイドである。特に、「新本格も飽きちゃったから、ちょっと昔の『名作』を読んでみたいんだけどよく分からなくて……」「最近の『新本格』だか『メフィスト賞』だか何だかはよく知らないけれど、一体どんな作家がどんな本を書いているんだ?」という人にお薦め。