高橋克彦『広重殺人事件』講談社文庫

愛妻冴子の自殺のショックを押して、浮世絵学者の津田良平は安藤広重の死にまつわる新説を出す。新説は注目され、津田の学者としての評判も高まるかと思われた矢先、冴子が自殺した同じ崖から津田自身も身を投げた。死の間際に津田が遺した言葉を手がかりに、塔馬双太郎が広重の謎、そして津田の死の謎を追う。



『写楽殺人事件』『北斎殺人事件』講談社文庫)に続く「浮世絵三部作」の完結編である。三部作の主人公とも言うべき非運の浮世絵学者、津田の運命に何とも悲しい気持ちになる。
広重の死の謎解きは見事。歴史推理の醍醐味を堪能できた。現実の事件とのリンクもきれいにまとまっていて、とても面白かった。現実の事件のリンクという点では前作『北斎殺人事件』の方がしっかりしているかもしれないが、全体の出来としてはむしろこちらの方がいいかもしれない。単に後から読んだので印象が強く残っているだけかもしれないが。
歴史や美術の専門用語がゴロゴロ出てくるので苦手意識を持つ人はどうしてもいるだろうが、この浮世絵三部作は歴史物・専門知識物の中でも読みやすい部類に入ると思う。同時に小説世界の中でその専門知識を出してくる必然性もきちんと考慮されている。間違いなく歴史ミステリの代表作である。