その1:雅楽全集

2月に刊行開始の戸板康二「中村雅楽探偵全集」も、11月の第5巻『松風の記憶』で無事完結。途中、隔月ペースの刊行が途切れて1ヶ月余計に間が空いた時はヒヤリとしたが、無事年内に完結。
第五巻に収録されている二長編のうち、『第三の演出者』を残して一通り読み直し完了。これまでばらばらに読んでいたものを、改めて頭から時系列順に読み直してみるといろいろと面白い。しかし改めて思うのは、雅楽物の本領は中後期だということ。
雅楽全集で言えば、謎解き重視だった『團十郎切腹事件』(第一巻)や『グリーン車の子供』(第二巻)のころは、正直文章が硬かったりトリックにこだわり過ぎているところがあって、今となっては古さが否めない。そして短編「グリーン車の子供」から『目黒の狂女』(第三巻)いわゆる「日常の謎」の走りとも言うべきポジションの時期も、実はまだ「雅楽物の味」は確立されていない。
かつてここで書いた雅楽物の味」、たとえば「人情の綾」や「『最後の一行』の味」といったものが冴えてくるのは、日常の「謎」からも離れつつあった『劇場の迷子』(第四巻)の時期、すなわち最晩年だと思っている。だから、もし雅楽物に興味がある方は、あえてこの第四巻から読んでみてもよいだろう。基本的に「初期の作品を読んでいないと意味が分からない or ネタバレされる」ということはないので。第一巻で挫折してしまったという方は特に。