定金伸治『ジハード1 猛き十字のアッカ』集英社文庫(ISBN:4087476154)

第1回ジャンプ小説・ノンフィクション大賞入選作*1であるこの本は1993年刊行。その時は赤背表紙のジャンプJブックス版(ISBN:4087030032)だった。図書館で見つけて手に取った時は既にIIかIIIが刊行されていたと思う。当時は遅ればせながら『ロードス島戦記』や『アルスラーン戦記』なんかを読みだしてヒロイック・ファンタジーにはまっていて、この手の話が大好きだった。おまけに軍師・戦略家・智謀の人タイプのキャラが好きだった*2私は、主人公ヴァレリーにすっかりはまってしまった。
それから『ジハード』は本編全11巻と外伝1巻を刊行して2002年に完結した。完結まできちんと読み続けた一方、次々と新しいキャラが登場しストーリーが広がっていく中で多少の戸惑いがあったのも事実だ。なぜならライトノベルという体裁に合わせてかキャラクター性を強めていく一方で、次第に哲学的な重いテーマを含みこむようになり、そのギャップが大きくなっていったからである。このチグハグ感というか違和感から、ヒロイック・ファンタジーとしての分かりやすい面白さがいまひとつ感じられなくなり、私自身も年齢と読書経験を重ねたせいもあるのか、昔ほど素直に楽しめなくなってしまって残念に思っていた。
そんな昔を思い出しながら文庫版第1巻を読んだ。今回(スーパーダッシュ文庫ではなく)集英社文庫に収録されるに当たり、一般向けを意識して大幅な改稿をしている。細かいエピソードが不自然でない形に直されていたり、新しいエピソードや登場人物が付け加えられるなど、かなり徹底して改稿を行なったことがうかがえる。そして全巻に通じるいくつかの哲学的テーマを既に1巻から埋め込みつつ、もともとのエンターテイメント小説としての面白さを失わないようにしていて、ジャンプノベルス版で感じた「違和感」をいい方向に解消しようとしている。
既に全作を読んでいるが、それをどのように改稿し新しい話を作りだしているかが非常に楽しみだ。歴史ファンタジーが好きな人にはぜひ一読を勧める。

*1:ちなみに第1回の佳作が村山由佳、第6回大賞が乙一

*2:三国志』なら孔明、『水滸伝』なら呉用が好きなのはもちろん、『アルスラーン』ならナルサス、『ロードス』ならスレインである。『銀英伝』なら? と聞かれそうだが、実は読んでいないのだ。