倉知淳『過ぎ行く風はみどり色』創元推理文庫(ISBN:4488421032)

文庫化を期に再読。やはり倉知淳の代表作は『星降り山荘の殺人』(講談社文庫)や『壷中の天国』(角川文庫)より絶対こっちだと思う。妙にマニアックな知識を繰りだしながらもとぼけた雰囲気を残し、「人を食った」トリックを見せつけつつもちゃんと伏線は張っている。心理の綾をうまくトリックに組み込む演出はうまい。ガチガチの本格で読者と勝負してやろうという気負いはこれっぽっちも作者にないのだが、逆に「いつの間にか引っ掛けられていた」驚きが味わえる。ようやくの文庫化で手軽に読めるようになったのだから、未読の人はぜひとも読むべし。