部下は育てるか管理するか

5分で人を育てる技術 (5)言うことを聞かない“自信過剰な部下” | 日経 xTECH(クロステック)
↑この記事に対して、あちこちのビジネス系ブログで反響が広がっている。反響の大元になったのはおそらく以下の二つのエントリ。
ふたつ下のヒューマンマネジメント:5分で人をダメにする技術 - 優秀な部下の能力の芽を摘み取る無能な上司 : 小野和俊のブログ
404 Blog Not Found:人を育てられると思ったら負けだと思っている
概して「育てると言うよりただのパワハラじゃないか……」という批判が多数ある一方、リアクションの中にはちらほら「実際問題、こういう部下って本当に困り者で、これぐらいの荒療治はしないと逆にまずいんだよ」というものもある(もしかしたら後者は「サイレントマジョリティ」かもしれない)。

このやり方の是非を問う際にポイントとなること。
まずは、今回芦屋氏が坂本君に仕掛けた作戦の狙いが、「坂本君を芦屋氏の言うことに従わせる」ことなのか、あるいは「坂本君の考え方は必ずしもビジネスの世界では通用しないことを実感させる」ことなのかをはっきりさせなければいけない。
前者であれば、芦屋氏の指示を相違なく適切に実行するよう部下を「管理する」ことを目指している。後者であれば、ビジネスの法則に関する経験を積ませて部下に「考えさせる」ことを目指している。この両者は「部下に自主性を持たせるか否か」という点でベクトルが正反対であるため、議論の上でごっちゃにしてしまうと話がややこしくなってしまう。
そして、「管理する」のと「考えさせる」のとどちらが正解かについては、仕事の性質などに左右されるので一概には言えないことも考慮しないといけない。
一般的には「考えさせる」方が望ましいのだろうが、仕事の目的のためには「管理する」ことが第一条件である場合も存在する*1。極端に言えば軍隊や警察では「管理する」どころか「服従する」ことが絶対条件になるし、製造業や運用管理系の仕事ではあまり勝手な作業をしないように「管理する」ことは必要になるだろう。突き詰めて考えると、どちらが正解かはケースバイケースとしか言えないし、同じ組織でも時期によって一方からもう一方へ180度方針を変えることはありうる。
だから、上司が坂本君に対してやろうとしていたことの狙いについては、すべてが間違いとまでは言い切れないように思う。


むしろ問題は、「やり口」が露骨すぎて、失敗するリスクが大きいということだろう。
次長や部長との間で口裏を合わせておくだけでなく、「芦屋氏の言うことを聞かないかぎり君の話は聞かないよ」というのをあからさまに言わせるのは、行動だけ見ればパワハラと見分けがつかない。さらに、もし「これは君のためを思ってやったことなんだよ」と芦屋氏が坂本君に内幕をばらしたとしても、「未熟な私へのご配慮に感謝します」と感激するどころか、「結局オレの意見を上の人まで巻き込んでまで潰したかっただけかよ」と思われる可能性も高い。今度は信頼感や尊敬まで一気に無くす危険性がある。
このやり口だと、副作用が発生するリスクが大きい上に、万一副作用が発生した時の手の打ちようがない。「人を育てる」ための手段としてはあまりにバクチ過ぎるように思う。
「それは部下の立場でしかものを言っていない。上司の立場のことを分かってないんじゃない?」という反論がありそうだ。確かに私はほとんど「上司の立場」と言うことを体験していないから、視点が偏っていることは認める。ただ、このやり口について、部下の立場から批判が多数集まっているということは、上司として頭の片隅に入れておく方が良いのでは。


最後に、この問題の本質について論じている優秀な人材に変身するキッカケに出会うか、未熟なまま老いていくか - 分裂勘違い君劇場 by ふろむだと、意外と「毒には毒を」作戦として有効なんじゃないかという気もするhttp://bogusne.ws/article/29296100.htmlトラックバック

*1:議論の構造としては体罰の是非をめぐる問題と似ていると思うが、今回の問題の場合、ビジネスとしての明確な目的に照らして正解がわりあい明快に出てくる点は大きな違いだろう。