珍しい書評誌なぞ

神保町に出て、初めて書肆アクセスに入って買ってきたのが『季刊BOOKISH』6号(ISBN:4894920484)。「[書評]のメルマガ」で紹介されたのを見て買ったお目当ては、特集の「戸板康二への招待」。
日下三蔵戸板康二のミステリ作品の紹介をしているが、これは刊行本リストを列挙したのに近い感じ。しかし、「今年、平成十六年には創元推理文庫から中村雅楽シリーズをすべて収録した全集を出す予定」という言葉に大いに喜ぶ。噂になっては立ち消えになり、というのを繰り返してきた雅楽全集がようやくカウントダウンに入ったというのは嬉しい。これでまたチャラにならないことを新小川町の方に祈る。刊行の暁には及ばずながら宣伝させていただきます。>虚空への叫び
特集全体としては、劇評からエッセイにいたるまで幅広く書いていた戸板康二の魅力をうまく伝えており好感が持てる。自筆のスケッチ集や今もお元気な当世子夫人へのインタビューなど読みどころが多い。その中で一番びっくりしたのは、児玉竜一の文章の中で、雅楽もの第一作の「車引殺人事件」の初稿が、とある歌舞伎雑誌の増刊号に変名で掲載されていたと書いてあったこと。歌舞伎研究の方では既に知られたネタだったのかもしれないが、ミステリー史においてはちょっとした発見にちがいない。
特集以外のエッセイや書評も面白い物がそろっている。あるページを読んでいたら「新中間層」や「社会変動」という社会学の専門用語にぶつかり、いったい誰が書いているんだろうと思ったらたけのこさんだったり。えてしてこの手の読書系エッセイは、「一般人は誰も読まないような高級な本を私は読んでるんだぞー。あんたらどうせこんな本は読んでないでしょ。私ってすごい!?」というスノビッシュな臭いが漂ってくることがあるが、この本の各エッセイは面白い本を素直に紹介するというスタンスを守っていて好感が持てる。なかなかいい雑誌だ。